『オーストラリア遠征』
ウインドサーファー尾川潤の第8回目のコラム
『オーストラリア遠征』
海外遠征コラムの第三弾は、オーストラリア西部のパースという街から少し離れた港町フリーマントルで開催された世界選手権に出場した時のお話です。
2011年のクリスマス。南半球にあるオーストラリアは日本とは真逆の季節。つまり人生初めての真夏のクリスマスでした。暑い季節に街中が綺麗なイルミネーションで飾られ、赤いサンタがうろついていたのが、なんとも新鮮でした。
前回までの2回の世界遠征を経験して、本格的にオリンピックを意識し始め、初めてオリンピック艇種で世界に挑戦したのがこの大会でした。オリンピック艇種はそれまでの道具と違い、ボードや帆のサイズが一回り大きい物になります。そのため出場する世界の選手たちはみんな体が大きく、僕はまさに世界一小さい挑戦者でした。結果として、まだまだ技術的にも肉体的にも未熟な僕は、この大会で世界との壁を目の当たりにすることになりました。できないことが多すぎて、結果を出すというより、見るもの全てを自分のものに吸収してやろうという気持ちで臨んだレースでした。
さて、この大会を通して、技術的なことももちろんですが、もっと大切なことを勉強して帰ってきました。それは、周りの選手の上手い下手に関わらず天候の良し悪しにも関係なく、「戦う」という戦闘準備において、そもそも自分自身のコンディションを環境からちゃんと整えておかなければならないこと強く感じさせられました。海外遠征には渡航費や道具運搬費や宿泊費など莫大な遠征費用がかかるため、今回は出来る限り宿泊費を抑えようと、バックパッカーたちが泊まる格安宿を手配しました。この時、泊まった宿舎で大きな問題が起きたのです。ある日の朝起きると身体中に謎の湿疹ができて数日後にはこれまでに経験したことのないような痒みが全身を襲いました。レース前の練習もそれどころではなくなりました。急遽、現地の病院に行って診察してもらいました。なんとその診断結果が、ベッドバグと言われ、頭の上にクエスチョンマークがたくさん浮かびました。つまりは、虫刺されです。みんなに笑われました。僕からしたら壮絶な痒みで笑うに笑えません。調べてみると、ベッドや壁の中などに寄生する夜行性で動物の血を吸って生きる南京虫とのこと。簡単に言うとでっかいダニです。夜中に電気をつけてみるとベッドや壁を這っている姿を見た時のことを今でも思い出すとゾッとします。部屋を変えてもらいその後は事なきを得ましたが、夜も眠れない日々が続き、その結果は容易に想像つくかと思います。。。